NVDA(NonVisual Desktop Access)は、Windowsで動作する無料のスクリーンリーダーです。
いわゆる「支援技術(Assistive Technology)」に分類されるソフトウェアですが、その設計思想はすこし「支援」とは異なります。
NVDAは誰もが同じコストでコンピューターを使えるようにすることを目指して、無料のソフトウェアとして誕生しました。
開発者たちがかつて繰り返し使っていたキーワードは “equivalent(同等の条件、あるいは対等性)” です。
NVDAがどのように「支援」ではなく「対等性」を追求してきたのかを、ひさしぶりに振り返ります。
支援技術でありながら「支援」ではないNVDA
NVDAはスクリーンリーダーとして「支援技術」に分類されます。
しかしその機能は、視覚障害者に特別な支援を施すためのツールというよりも、視覚の有無に関係なく、誰もが同じ情報構造にアクセスできるようにすることを重視しています。
NVDAは「不足を補う道具」ではなく、「もともと使える構造を、そのまま利用可能にする道具」なのです。
「対等性」の前提はキーボード操作可能
NVDAが「対等なユーザー体験」を実現するには、前提条件があります。
それは、スクリーンリーダーの有無にかかわらず、PCやウェブがキーボード操作のみで完結できるように設計されていることです。
アプリやWebサイトにおいて、Tabキーでフォーカスが移動し、見出しやフォームが論理的な順序で配置されている。そうした条件が整っているからこそ、NVDAは共通のユーザー体験への橋渡し役として機能します。
覚えるべきことは「増える」けど「ズレない」
NVDAを操作するには、固有のショートカットやキー操作を覚える必要があります。
しかし、それらはWindowsの操作体系に対する、自然な拡張として設計されており、まったく別のルールが導入されているわけではありません。
たとえば、Alt+Tabでアプリを切り替える操作や、Tabキーでフォーカスを移動する基本操作に加えて、NVDAキーとの組み合わせで、視覚的な情報や操作を補っています。
新たに覚えることはあっても、既存の体系からズレることがないのです。
NVDAが採用しない「過剰な支援」
NVDAの開発方針では、「equivalent(同等の条件)」を成立させるかどうかが、機能をコアに含めるかどうかの重要な判断基準となってきました。
たとえば、視覚障害者のための特別なアプリの起動や切り替えなどの機能は、晴眼者には提供されない導線であり、「同じ条件」とは言い難いため、コア機能としては採用されていません。
ですが、画面の右下に常に表示されているカレンダーや時計を報告する機能は、晴眼者と対等であるために必要と考えられ、NVDA+F12 として実装されています。
NVDAが重視するのは、便利さの最大化ではなく、「対等性」の維持です。
「使える」だけでなく「体験を共有できる」
NVDAが提供しようとしているのは、単にアプリやウェブを「使える」ことではありません。
その使い方や理解のされ方、情報へのアクセスのしかたまでを含めて、「使うという体験」を晴眼者と共有できます。
Tabキーで移動し、ショートカットで操作し、構造を理解して目的を果たす。
操作手段が異なっても、得られる結果と過程は共通のものになる。
そのような体験の共有が、NVDAの「equivalent」です。
変化の中でも残り続ける価値
かつて、NVDAが掲げていた “equivalent” というキーワードには強い説得力がありました。
しかし近年では、ビジュアルハイライト、OCR、リモートアクセスなど、一見「特別な支援」に見える機能もコアに加わるようになり、その思想が揺れているように感じることもあります。
NVDAの利用者層が広がり、全盲ユーザーだけでなく、ロービジョン、学習支援、アクセシビリティ検証の目的でも使われるようになったことが、その理由かも知れません。
Windows自体も変化しており、OS標準機能として生成AIが統合される時代となりました。NVDAのSkype対応にずいぶん時間をかけて検証をしたのは遠い昔。まもなくSkypeがサービスを終了します。
NVDAの開発チームは、組織利用を想定したセキュリティ対応や、Windowsの64ビット移行にも取り組んでいます。たとえ目立った機能の追加や変更がなくてもNVDAは時代に合わせて変化し続けています。
それでも、視覚障害者とアクセシビリティ検証者が、同じツールを無料で使い、同じ構造で情報にアクセスできるという価値、この「equivalent」の精神は、NVDAに残り続けていると思います。
だから、NVDAの設計思想や機能選定について、これからも定期的に丁寧に伝えていくことが大切だと考えています。