多様な学びのスタイルと、それぞれが目指す知への道のイメージ

学び方の違いを支援に活かす

想像を超える一冊

書店で『もう一度プログラミングをはじめてみませんか?』(山崎晴可・山崎彩子著/技術評論社)を手に取りました。

もう一度プログラミングをはじめてみませんか? ――人生を再起動するサバイバルガイド
山崎晴可,山崎彩子 著

新刊案内のタイトルで「初心者向けの再入門書」という印象を受けて、あまり興味を持っていなかったのですが、実際に手に取って、それがまったく違うことに気づきました。

序章「再起動」には、障害者支援技術を手作りして、ある人の人生を支えたことが、静かに、しかし確かな手触りで描かれていました。

「こんな時代に、こんな形で作られた支援技術があったのか」と、私は衝撃を受けました。

この「序章」は「サンプルPDFファイル」として公開されています。

私の勝手な憶測

序章とは異なり、本編では、障害のある人についての明示的な言及は登場しません。

勝手な憶測ですが、私は、そこにも著者の深い配慮があるように感じました。

特別な立場の誰かの話ではなく、「誰にでもある挫折」や「学び直しの難しさ」を扱うために、あえて「個性」や「多様性」として扱っている。

そのことが、この本をより多くの人にとって“自分ごと”として開かれたものにしているのだと思います。

多様性と向き合う

私はスクリーンリーダーNVDAに加えて、ソフトウェア開発チームやセキュリティマネジメントなどのコンサルティングを行っています。過去には教員としてプログラミングの指導をしたこともあり、コミュニティでも同じようなことをしています。

個人の多様性と向き合うことで、思いがけない能力や結果を出してもらえたこともありました。

一方で、困っている人をうまく救済してあげられなくて、悔しい思いをすることも、何度もありました。

すでに習得している人、使いこなしている人に聞くと、「気づいたら使えるようになっていた」という答えが返ってくることが多い。そこに私は違和感を持ち続けていました。

究極のチュートリアル、究極の教科書のようなものが作れないか、と思っていたこともあります。

最近だと、動画が学びの手段として一般的になり、またAIに教えられることも増えています。

本書は、徹底的に「学ぶ人の心」と向き合って、答えを示しています。

「プログラマーはなぜプログラミングができるようになったのか」という章は、その典型です。

スキル獲得の道のりに個人差があり、それを自覚していない人が多いという指摘を、私は「なるほど!」とうなずきながら読みました。

見えることと視覚的に考えること

本書を通じて、もう一つ大きな気づきがありました。

それは、「視覚障害の有無」と「思考そのものが視覚優位かどうか」は、同じではないかもしれない、ということです。

視覚障害があっても、空間的・構造的な理解に長けた人はいますし、晴眼者であっても、視覚情報よりも音や論理構造で捉える人もいます。

スクリーンリーダーの操作において、グラフィカルなユーザーインタフェースを前提にすると、読み上げの順序や構造、ナビゲーションの概念をどのように理解するかには、思考スタイルの影響が大きいのではないか。

この点を考えるきっかけになったのも、本書が示す「レディネス」「学習傾向の個人差」「思考特性」の丁寧な扱いでした。

私自身の課題として、考えていこうと思います。

教える側にこそ役立つ

『もう一度プログラミングをはじめてみませんか?』は、単なる「学び直しの入門書」ではありません。

「指導する側」「すでにできるようになった側」の人たちが、 自分のスキルがどのように育まれたのか、そしてそれをどう伝えるべきかを考えるための、 とても静かで、しかし根源的な問いを与えてくれました。

もっと深く丁寧に読みたい内容もありますが、私には充分な刺激となりました。

この本の著者の方々が、これだけの現場経験と観察、深い洞察をもって、 ここまで説得力のある形で「学びの困難さ」と「支援のあり方」を言語化されたことは、本当に素晴らしいことだと思います。